齋藤隆生

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Space 空間

360度、周囲全ての空間に物語が存在している。

しかも一回しかない物語だ。光の競演、雲の走り、牧草地の歌声。

私が生きている、この僅かな時間空間に、これらの空間が織りなす物語は様々な様相を織り成して、私と言う生命体に響くように話しかけているようだ。

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Moment 時

時間は過去から未来へと続く。

逆戻りはしない。そして、その瞬間は2度と同じものではない。

ただ、私は、人間と言う窓を通じて、一刻一刻の時間の流れの中で遭遇する万物の流れを感受している。

 

Nagare 流れ

森羅万象、全てのものは 流れの中にある。空気も、水も、無機物、有機物、この宇宙の全てが、流れに沿って存在し続ける。 

それは目に見えない力として流れを生み出し、永遠へと全てを押し流してゆく。

 無数の一致が起こるのだから、普遍的な現象が力を揮っていることがはっきりうかがわれる。単一の物理的原理(生物学や地質学、社会学の原理ではなく、万物に当てはまる原理)があって、経験に頼らなくても、そこから配置とリズムの現象が演繹できることを、これは示唆している。

平衡状態へ向かう動きーと重力ーがものを始動させる。コンストラクタル法則は、流れを促進する配置を自然が生み出すこと、この配置生成の現象には時間的な方向性があることを、はっきり示している。

 -『流れとかたち』Design in Nature エイドリアン・ベンジャミン&ペター・ゼイン

 
 

表紙 / 齋藤隆生
「Old Pond, Once upon a time」
1994 アルミニウム・木・セラミックに油彩
183 cm x 122 cm x 14 cm (72” x 48” x 5 1/2”)

齋藤隆生は浮き彫り状に変形された絵画を製作した後、この作品に見られるような構成物へと移行した。木、陶、金属などの断片が形づけられ磨かれ彩られているが、それらはかすかな凸凹はあるものの、以前と比べて表現のため逆に平面化している点が特色的である。

作家が作品形成のためになす加工は、きわめて綿密でありー形体の縁の微妙な決定や光によって調子を変える彩色法ー、齋藤の模倣者に認められる単に塗られた立体という印象を与えたりはしない。齋藤の構成物は、物体を用いているものの、いわゆる「発見された物体」ではない。

また、支持体となるべき物体が加工されているものではないだろう。加工された物体が支持体となり、表現要素となって、自発的でありながらもあの平面化により却って持続性のあるイリュージョンを生み出していると言うべきである。 齋藤の構成物には、垂直の方向を強調する作品が多い。この作品は、なかでも安定したものであり、楕円という形体が有しがちな装飾性を免れた高度な表現力をもっている。

藤枝晃雄・美術評論家

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 About

2016年 カリフォルニア州Bodega Bayに移住
1986年 ニューヨーク市ブルックリンに移住
1977年 ニューヨーク市ソーホー(SoHo)地区に移住
1977年 School of Art Institute of Chicago大学院卒
1974年 渡米
1974年 大阪芸術大学美術学部卒
1949年 愛知県名古屋市生まれ

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1994年 Art in Residence Exhibition, Tribeca Tower, NY
1993年 Signs of Life, OIA Gallery, NY
1992年 Beneath the Surface, Tribeca 148 Gallery, NY
1991年 Time Window, Rotunda Gallery, The Brooklyn War Memorial in Cadman Plaza, NY
Time Window, Metropolitan Design Center, NY
1990年 Natural Selection, Henry Street Settlement, NY
Clifford Still, A Dialogue, Philippe Briet Gallery, NY
1989年 Tropical Rein Forest, 250 E. Houston St., NY
1987年 A Contemporary View of Nature, The Aldrich Museum of
Contemporary Art, Ridgefield, CT
1986年 Access Bronx Artists United for Medical Aid to Nicaragua,
The El Bohio, NY
1985年 Logosimuli, Daniel Newburg Gallery, NY
Roots to Reality, Henry Street Settlement, NY
A. N. Y. View, Sixth Sense Gallery, NY
New Summer, Piiietrasanta Fine Arts, NY
1984年 Gloria Luria Gallery, Bar Harbor Islands, FL
1983年 Kamakura Gallery, Ginza, Tokyo, Japan
    Amano Gallery, Osaka, Japan
1982年 Roger Litz Gallery, NY
    Critical Perspectives, P. S. 1, Long Island City, NY
1981年 Barbara Toll Fine Arts, NY
    Stefanotti Gallery, NY
1980年 Art for the Eighties, Galerie Durban, Caracas, Venezuela
New Work / New Artists, Hal Bromm Gallery, NY
Grace Borgenicht Gallery, NY
1977年 National Drawing Biennial, Rutgers University - New Brunswick, NJ

 Work

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New York

1977 - 2015

1977年ニューヨーク・ソーホー(SOHO)地区のロフト(倉庫)に住み始め、暖房施設がないロフトで寒さに震えながら作品を制作していた。大雪が降った夜、暖かい、近くのバーに出かけた。中にはジェフ・クーンズ(Jeff Koons)を含め、ソーホー中のアーティストが集まっていた。

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Bodega Bay

2016 - Present

Bodega Bayは1960年代に作られた有名な映画、ヒッチコック監督の「The Bird(鳥)」のロケ地。米国内でも鳥の種類が多い土地柄で、ハミングバードやブルーバードなど自宅の庭にも様々な鳥たちが季節ごとに来てくれるし、周辺には広々とした牧草地帯が大地を覆っている。

私が生まれたのは、米軍爆撃機B29に焼かれた名古屋城がまだ再建されていない、戦後の傷跡が色濃く残っていた名古屋市内の下町です。周りには中小企業の工場がひしめき合って、朝から晩まで街中に騒音が満ち溢れていました。子供の頃の私は、自宅兼工場の父が経営していた菓子工場の音を身近に聴きながら育ちました。両親は仕事に忙しく子供に構っている余裕がなくて、そんな中、私にとって唯一の楽しみは子供相手の「お絵描き教室」に通う事でした。そこは自由で、様々な想像の世界へと私の心を解き放ってくれました。

三重県大王崎 (1961) 油彩

中学生になってから、元特攻隊員の画家の先生の家に通い出しました。その先生の小さな家の中は、本に押し潰されそうに大量の書籍が部屋一杯に積んでありました。彼は私に様々な本を読む事を勧めてくれました。最初に読んだ本はデカルトです。どこまで、その頃の私に理解できたのか分かりませんが、新鮮な感動を覚えたのを今も記憶しています。彼の小さなアトリエで、私も絵を描きました。いつも、クラッシック音楽が流れていたのですが、ある日、彼の新しいレコードコレクションからジョンコルトレーン「至上の愛」(John Coltrane 1926-1967)をかけてくれました。非常に驚きました。心が揺さぶられました。それは今まで聞いた事のない音楽でした。そして先生は古本屋で見つけてくれた当時スイスで印刷された『ピカソの画集』を私のために入手してくれました。今も、その本はBodega Bayの私の自宅にあります。

そして、生きていれば、誰にでもあるように、様々な事がありました。  人生と言う時間の流れに押し流されるように、この地、カリフォルニア州のボデガベイに辿りつきました。 それまで私は街の中で生まれ育ち、日本でもアメリカでも都会の中で暮らしていました。まさに生粋の都会っ子です。ニューヨークに住んでいた頃、ユタ州やアリゾナの西部の砂漠地帯に5回ほど出かけました。その時の大地から得た感動には大きなものがありました。しかし、今まで自然の中でその息吹きを感じながら毎日暮らす生活を、何年も過ごす事はありませんでした。

空間の君と僕 (1965)
油彩 50 cm x 60.5 cm

1960年代に電力会社が原子力発電所を作ろうとしたのですが、住民の猛烈な強い反対運動にあって頓挫しました。今もその海岸場所には、当時の基礎工事の跡と環境問題を米国で初めて提起した場所として記録文章が掲載されています。 アメリカ国内の多くの場所とは違って、現在住んでいるBodega Bayではハンティング(狩り)が禁止されています。そのため周辺では山猫、コヨーテ、狐、鹿、兎など野生動物が徘徊するような豊かな自然が残っています。 そして自宅からも見えるBodega Bay周辺にはサーモン、蟹、牡蠣などの豊かな海が広がっています。

そして、『私』と云う小さな生命体の物語は、ここから、また始まります。

2020年7月7日 齋藤隆生